四日目……ユーリ(ラピード)・サレ・デクス・グリューネ








楽しそうにラピードの背に乗ったは俺達を屋敷へと案内していった。



「らぴーどっここだよ」

「アウ!」



俺やサレ、デクスは驚き呆然としていた(グリューネ除く)。



「噂には聞いていたが…」

「でか…っ」

「アガーテ女王が妙に嬉々としていたのはこういうことか…」

「あらあら大きなおうちね〜。お姉さんびっくりしちゃったわぁ」


「みんなはいりゅよ!」





玄関ホールに一歩踏み込めば、今度は室内の様子にも圧倒される。
床は絨毯張り、天井は優しい光のシャンデリア。
壁などには幾つか風景画が飾ってあり、季節の花々も彩り鮮やかに飾られている。

この屋敷の管理は三大王家が担っているとか言ってたな。
それぞれが担当を決め、いつでも最善の状態にすることを忘れないらしい。




「みんなのおへやはどこにしゅるー?」



たたたっと階段を駆け上がる。ラピードと一緒なのでいつもより余計にテンションが高い。
まだ追いつかぬ俺らを置いてあっという間に二階へ行ってしまった。






――…って聞こえてないか。やれやれ、行動的なのは変わってねえな」



後を追いかけて二階へ上がった俺の目に映ったのは




「…っこれは何かの嫌がらせかい?」

サレの口元がぴくぴくと動いている。



ドアに付けられたプレート。そこに書かれていたのは前回泊まったイオンとフォレストの名前。

次のドアに付けられたプレートにはまたその前のメンバーの名前。



まだ誰とでも普通に上手くやれる者ならばこの部屋割りはあり得る。
けれどリオンやワルター、シンクと言った一人を好みそうな者までが相部屋を良しとしているとは考えられねえ。

つまり、これは本人達が望む望まざるに関わらずその日のメンバーとの相部屋になるってことだな…。




、皆は同じ部屋で寝てたかい?」

「うん!あのねっおとこどーしはおんなじへやでねるのっ。だからはあにーやぷれせあとはべつべつだったの」

「…そうかい」




サレが考えていることは大体想像がつく。
恐らくはデクスだろう。


あの香水の臭いと共に一晩を過ごしたくない。






俺はフォレストから受け取った子守日記を読んである所に気がついた。




「ここ当番制みたいだぜ。役割どうする?」

「役割…?何があるんだい?」

「朝・夜の飯作りとの風呂と寝かしつけだってよ。料理出来る奴ー?」




その言葉に手を挙げたのはデクスのみ、サレとグリューネは挙げていない。



「…なら俺とデクスだな。デクス、俺朝用意するから夜任せていいか?」

「へ?そりゃ良いけど…朝のが起きるの早いのに良いのか?じゃ、俺頑張るわ!」



実際早起きする朝食係の方が面倒くさいと思えるだろうが、実は先人達の記録ノートを見て俺は知っていた。





と一緒に朝食を作った”



と言う文章が一日目のルカも、二日目のクラトスも、三日目のプレセアにもあったのだ。
他のメンバーはまだ寝ているし、静かなうちに作業をこなせるのとと二人と言う利点。
これを逃す手は無い。



「じゃあ消去法で僕が風呂か…。ん、でもグリューネに寝かしつけさせれないな。どうする?」

「あらぁわたくし出来るわよぉ。ちゃんと一緒に寝ればいいのよねえ?」

「幾ら子供でもは男だよ?元に戻った時本人が一番驚くんじゃないかな」

「大丈夫よぉ。ねえ、ちゃん?」


笑顔のグリューネにつられても笑顔で頷く。
大丈夫か?とも思ったが風呂係と代わるわけにもいかないし、そのまま変更は無しで進められた。



















まだ日も高い、ギルドのクエストも子守メンバーは免除となっている為コレといってすることは無く暇だった。

そんな折、再度との接触を図ろうとしていたデクスが目に入った。


じりじりと距離を詰めるが、やはりも後ずさっていくので溝は埋まらない。



〜〜〜〜…」


「こっちきちゃめっ!!!」


(ガーーーーン!!)


とりつくシマもない様子に肩を落とすデクス。
じめじめとした空気が部屋中に流れてきて、こっちの気まで滅入りそうだ。




そんな中の、グリューネのほんわかした発現。




ちゃんはデクスちゃんのことだぁいすきなのねえ」


「グリューネ…君、この状況を見てそれを言うのかい?」


「だって、“来ちゃ駄目”って言った後ちょっと寂しそうな顔しながらじっと見てるんだもの。
 嫌ならお部屋出て行くじゃない?それでもちゃぁんとそこにいるんだもの」



グリューネの言葉にがばっとデクスが顔を上げてを見る。
はソファの後ろからそっと顔を覗かせ、答えた。




「…うん…でくしゅきらいじゃないもん。でも…においはやっ」



それを聞くなり、デクスはダッシュでリビングを出て行った。


十五分くらいしただろうか、デクスは火照った顔で帰ってきた。
上気した顔、髪から滴る雫、それらから風呂へ行ってきたと分かる。

もう先程までの香水の臭いはしない、むしろシャンプーか入浴剤かの匂いがする。


デクスはそのままに近づいて行った。
今度はは逃げなかった。



「…、これなら良いか?」


は鼻をヒクヒクさせて臭いが無いか確認すると笑顔で頷いた。




「うん!!、そっちのでくしゅのがいい!!」

〜〜〜〜〜!!!」



ようやく近づく事を許されたデクスは感激のあまり、ガッツポーズをする。
これでデクスはと一緒にいる今日明日はあの香水はつけないだろう。
これには俺とサレも内心喜んだ。



『『あの臭いの中で眠らなくて済む!!』』




























「らぴーど、おしゃんぽいこ?」
「アウ?」


あまりにも暇なのか、はラピードを伴って外へ出ようとする。

ま、確かに昼間から家の中でじっとしてろってのはガキには退屈なことだよな。




「おいおい、。幾ら街中でも一人じゃあぶねえよ」
「らぴーどもいっしょだよ」
「…まあラピードがいるなら危険はねえだろうけどよぉ…」


デクスはまだ心配らしい。
けどは外に行く気満々で止められそうに無い。




「じゃあちゃん、お姉さんと一緒に行きましょ〜?」
「ぐりゅーねも?うん、いいよっ」
「じゃあ、俺も行くわ」


実を言えば結構俺も暇を感じていたのでここで便乗しておく。
デクスは夕食作り、サレは本を読むからと残り、俺とグリューネがに付き添うことになった。














ただ、は街には向かわず街の外に停めてあるイクシフォスラーに真っ直ぐ駆けて行った。


、何処に行くんだ?」
「もふもふのむら!きゅっぽたちにあいにいくの」
「まあ〜お姉さんも皆に会いたいわぁー」



結構な距離ではあるが、まあイクシフォスラーなら夜までに戻ることは可能だろう。


現に数十分もしないうちに着いた集落は、岩山に穴を開けて作った入り口から中へ入った。
ラッコのくせに陸に住んでるのか?と思ったが中に入ってみて驚いた。


中には地底湖が広がり、その周りにはホタテを模った家が沢山並んでいる。
とても住んでいるのがモフモフだけと言うのが信じがたいが、この集落に人影はない。


「ゆーり、あっち」
「わかったわかった。ちゃんとラピードに掴ってろ」


ラピードに乗ったは一日中ご機嫌だ。
これならノートの最優先事項に書いてあったことは守れそうだな。


を泣かさない”



泣かした日にゃあ、過保護軍団が黙っちゃねえからなあ……(主にガイとかリヒターとかガイとか)(笑)



「キュっ!さんいらっしゃいだキュ〜!」
さんだキュ!」

「きゅっぽ、ぴっぽ」



沢山のラッコに囲まれながら楽しそうにしているを見れば、確かに泣かしたくねえなあ。




「なんだか今日のさん達“家族”みたいだキュ」

「…かぞく?」

「グリューネさんがお母さんでユーリさんがお父さん、さんは二人の子供だキュ」




ラッコの言葉にグリューネは微笑んでいたが、内心俺は複雑だった。
別にの父親に見られた事が、じゃなく自分が“父親”なんて柄じゃないと思ったからだ。




そんなことを考えていた俺は気付かなかった













が黙り込んでいるのを

















「おや、珍しい組み合わせですね」
「ジェイ、お前も来てたのか」
「此処は僕の仕事場の一つですから………?…さん、どうかしました?」
「は?………?」



見ればはさっきまでの楽しそうな表情をすっかり消し去ってしまい、ボーっとした顔だった。
何か気に障ることでもあったのか、疲れたのか分からないが暗い。
目線を合わせようと抱き上げると、大きな目が俺を見た。





「ゆーりはのおとうさんじゃないよね。じゃあのおとうさんはどこにいるのかな?」



その言葉の答えを持っている者は誰もいなかった。